Like a cat


『ねぇ、猫にはね、”子供スイッチ”と”大人スイッチ”と
”ペットスイッチ”と”野生スイッチ”があるんだって』
彼女は読んでいた本から顔を上げて、シンの方へ座りなおす。

「何…唐突に…って、それ…動物図鑑?ペットでも欲しくなったわけ?」
同じ部屋の中、一人勉強に勤しんでいたシンも、
そろそろ集中が切れかかっていたのか、こちらへと顔を向けてくれる。

『ううん…なんかね、読んでたらシンの事言ってるみたいだなって』
今にも吹き出しそうな顔を半分、開いた本に隠しながら、上目使いで見つめてみる。

「はぁっ?俺が猫?…どうゆう意味で言ってんの?」
眉間に表れる、明らかな不機嫌。

そもそも、中間テストを控えて勉強中のシンの所へ押し掛けたのは、自分の方だ。
遊びに行く事はできなくても、側に居るだけでいいと思って。

だけど、長らく構ってもらえなかった不満から、少しからかってやりたくなって
続けてみる。

『だって…シンって普段大人ぶってるけど、けっこう子供っぽいトコあるし?』

そうなのだ、大人顔負けの厳しい意見や、
正論を通す冷静さに、周囲から一目置かれているシンだが
その実、負けず嫌いだし我が儘な所もある事を、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた彼女は知っている。


そんな所が、ギャップとして彼の魅力になっている事にも密かに気付いていた。

「ふうん…自分の事、棚に上げて良く言うね」
シンは呆れたような表情を見せながらも、勉強机から立ち上がり、隣に腰を下ろした。

ふわっと舞う、鼻をくすぐる愛しい香り。
彼氏彼女の関係になってから、知っていた筈の香りにまで
一々ドキドキしてしまうのは何故だろう。

「で。他は何?」
開いていたページを覗き込むシンとの距離は、一層ドキドキを加速させる。

思いの他、話題に乗って来てくれた事は嬉しくて。
でも、いきなり詰められた距離への動揺を悟られたくなくて、
慌てて視線を本へと戻した。

『えっと…”ペットスイッチ”と”野生スイッチ”だって』

少し声がうわずっているのが自分でも分かってしまって悔しい。
さらにシンが反論してこないので、まくし立てるように続けるしか無かった。

『これもそうだよ!シンってさ、大人しくしてると思ってたら、いっきなり…その…えっと』

自分で振ったクセにその先をいざ言葉にしようとすると、今更恥ずかしさが襲う。

シンを真っ直ぐ見る事なんて出来る訳なくて、視線が空を彷徨う。
絶対、想定外だったこの密着度の所為だ。



『…っ…!!』
少しの躊躇いの隙を突くように塞がれた唇。
まるで、「その先は言わせるか」、というような…

『…んっ………はぁっ……』
噛み付くようなキスに、一瞬で停止する思考。

「いきなりキスしたりして、牙を剥くトコ…とかでしょ?」
瞼を開けると、不適な笑みで私を見つめるシンの顔が目の前にあって、
今の私の顔はきっと、とんでもなく間抜けなんだろう。

そもそも、自分で作った罠に自ら飛び込んでしまったようなものだから、
情けない事この上ない。

 

そうだ、猫だって肉食動物なのだ。
普段どんなに大人しくったて、ふわふわの毛に隠れているのは
鋭い爪と牙。

そんな事にも気付けなかった私は。
たった一つだけど、自分の方が年上だという意識がずっとあって。
なのに、いつの間にか捕食される側になっていた。

「野生スイッチ……入っちゃったんだけど。」
眼を細めながらそう言う彼は、さながら…

 

ー 覚悟を決めて、彼女は目を閉じる。

                                            update/2012419

 

               top         novels

 

<後書き>初めて書いたssでした。シンは猫耳とか似合うと思います。