最適な補給方法

 

 

今夜も短い時間を見つけて彼女と会っている。
と、いってもオレは参考書を広げているが。
ラストスパートの詰め込みが始まったら、きっと今よりも会えなくなるだろう。
その前に、どんな短い時間でもいいから一緒にいたいという気持ちは
言葉に出さずとも、お互い通じていた。

彼女は帰り道に買って来たというケーキ屋の箱を
のぞきながら、お茶の準備を始めている。

『ねぇ、シンー、ケーキとゼリーどっちがいい?』
キッチンから聞こえる彼女の声に、オレは本から顔も上げずに答えた。

「…両方。」
『じゃぁ、半分ずつ、ね?』
声のトーンに嬉しさが表れている。
オレの勉強中は集中を乱さないように、物音ひとつにも気を遣っている彼女だが
休憩タイムだけは普段のテンションに切り替わるようだ。

まぁ、”彼女の部屋で勉強”なんてシチュエーション、
集中もクソもないんだが。

「キリのいいトコまで終わらせるから、先食べてて。」
長文の英訳問題に目を走らせながら、目の前のご褒美を少し遠くに追いやる。

ちょっと不満げな彼女は『そんな事言ってたら全部食べちゃうんだからねー』
なんて言いながら箱の中のケーキを取り出している。

ここで「全部食べたら太るぞ」なんて返したら、
面倒な展開になるのが、想像できたので黙っておいた。

 

ライン

 

『はっ…ぁ…』
艶を含んだような溜め息に振り返ってオレは絶句した。

さっきまで着ていたカーディガンを脱いで、
キャミソール一枚になった彼女がテーブルに頬杖をついている。
「おい…!お前なんて格好してんだよ!」
頭の中を占領していた公式や英単語が一瞬で吹き飛んだ。

『だって…なんかすごく熱いの…』
片手でおでこを押さえながら、もう片方で胸元を押さえている。
暖房は入れていたが、キャミ一枚になる程の室温ではない。
どういう事だ?

ふとテーブルに視線を移すと、そこには
食べかけの、ゼリー。
…これか。

「お前、酔ってるだろ。」
きっとこのカシス色のゼリーにはリキュールか何かのアルコール成分が入ってるに違いない。
それもかなりの量。

『う…ん…』

赤らんだ頬、
潤んだ瞳、
半開きの唇、
どれ一つ取っても、破壊力抜群なパスである事は確かで、
オレは釘付けにされたように、目を逸らせないでいた。

と、突然立ち上がろうとした、彼女の体がバランスを崩す。

「ッ…!!おい、バカ!」

慌てて抱きとめた彼女の身体が、熱くて。
いつもは抱きしめると、緊張から堅くなってしまう彼女の身体が、
どこまでも柔らかくて。

腰に手を回す。
いつもの抵抗が微塵もなくて変な感じだ。

「おい、襲うぞ。」
『うー…ん』
全体重を預けられても、半分力の抜けた状態では支えきれないので
ゆっくりと座らせる。

トロン、とした目。
これで、誘ってないなんて言われても
説得力ゼロだろ。
「キスするくらいは許せよな…」
『…シ…ン』
吐息が耳にかかる。
それは、ひどく扇情的で。

もう我慢出来なかった。

彼女の唇は、
熱くて、甘い、熟れた果実のような味がして
オレの理性を痺れさせていく。

毒でもいい。
もっと、もっと、味わいたくて、
一方的に舌を絡ませる。

 

ライン


『あれ…、』
彼女が目を覚ましたようだ。
状況が理解出来ないらしく、ポカーンとしている。
「ハイ、水。」
ありがとう、と小さく呟いた彼女はコップに口をつけた。
『私…寝ちゃったの…?』

不思議そうに首をかしげるから、
「お前、洋酒の入ったゼリーで酔っぱらったんだよ。子供みてぇ。」
少し意地悪く教えてやると、はっと顔を赤らめて俯く。

『やだ…、恥ずかしいな…』
「いいんじゃない、オレは得したし。」
『えっ、なんで??』
「…それより、お前、これからは気を付けろよ。
こんなんで酔っぱらう程、酒弱いってわかったんだから。」

彼女のあんな姿、絶対他の奴に見せる訳にはいかない。

『あ…シン、ケーキまだ半分残ってるよ?』
「…いい。もう十分、糖分摂取したから。」
またも不思議そうな彼女に、心の中でこっそり呟いた。

毎回、こんな風にチャージできたらいいのに。

 

ー 糖分を欲しているのは頭だけじゃない。

                                            update/2012428


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                      <後書き>熱にうなされながら書きました…